肉用牛 繁殖部門
高橋 勝美・芙美子
1.地域の概況
松代町は、新潟県の南西部、東頚城郡の東端に位置し、標高は、150~600mで東頸城丘陵の中に位置している。冬は、県内でも有数の豪雪地帯で積雪は3~4m、積雪期間140日に及ぶ。耕地は散在している。
1.町の人口及び面積と位置
人口・4.203人、面積・90.47km2、位置・東経138度41分、北緯37度05分
2.町の主産業と農業、畜産の状況
主産業・農業(米、野菜、肉用牛)、 林業(山菜栽培)、 ワラ加工(青刈り稲のしめ縄造り)、
農業の規模と生産高・稲作面積476ha、生産高639百万円、畑作面積44ha、生産高82百万円、
肉用牛(繁殖牛68頭、肥育牛31頭)、生産高27百万円
2.経営管理技術や特色ある取り組み
経営実績とそれを支える経営管理技術、 特色ある取り組み内容とその成果等 | 左記の活動に取り組んだ動機、背景、経過やその取り組みを支えた外部からの支援等 |
1妻の協力で繁殖牛増頭を成し遂げる。 結婚当初水田70a、繁殖牛9頭だったものが、現在水田200a、繁殖牛25頭に増加して農業基盤か築かれた。 2飼養管理に担当制を取り入れる。 本人は、肥育牛管理、種付け、子牛出荷の積込み、ボロ出し及び堆肥処理、草地管理と収穫等経営全体を統括 妻は、繁殖牛の飼養管理と観察、子牛の哺育・育成、夏場の野草刈取り(夫婦で)を担当 3飼養管理技術向上の取組み (1)分娩間隔の短縮の取組み ア妻が母親の細やかな心使いと優しい目で母牛と子牛の管理観察を行なって、分娩後の母牛の回復や発情の再帰を注意深く観察している。発情の発見後は夫に連絡し種付けを行うイ分娩後10齢の早期で母牛と子牛の別飼を実行する。哺乳は朝・夕の2回行って、それ以外は別飼で管理して、離乳は3か月と比較的短くし、母牛の産後の回復を促す。 ウ受胎牛は放牧場に6~10月までの間季節放牧を行い、在房牛はパドックで運動と日光欲をさせ健康を維持する。 (2)子牛の品質向上と商品化の取組み ア生後10日で別飼し朝・夕の2回の哺乳以外は人工乳、牧草を給与して早期に胃袋作りを行なって食込みの良い肥育素牛を出荷する。 イ肥育農家には素牛の血統当の需要が種々あり、これに対応するために飼養牛の血統を安福165-9、北国7-8、平茂勝、その他を凡1/4ずつ飼養して子牛を生産して要望に応えている。なお、繁殖牛の更新時期は凡そ7産後を目安にしている。 ウ発育不足で繁殖に適さない雌牛やまき牛の子牛は、市場評価が低いため保留して、これの付加価値つれることと、自身の生産子牛の能力を判断する意味から肥育を行っている。 (3)粗飼料確保の取組み ア原野、土手等の野草を妻と2人で6月初旬~9月初旬の約100日間刈取りを行なって繁殖牛に給与している。 イ堆肥の交換で稲ワラ収集を行なって、粗飼料の確保を行なっている。 ウ夏季の放牧は、母牛の健康維持と夏場に牛舎内の飼養頭数少なくして、野草刈りに費やす労働力の軽減と併せて冬期間の粗飼料確保を行っている。 4経営管理の取組み 農業後継者のいない経営は、得てして借入金が多くあるように思えいならなかったことから、後継者を期待するのであれば、後継者に借金は課せれない、自由な発想のもとで、継承出来るように、健全経営に努めてきた。 結果、現在は自己資本比率78.7%、繁殖牛1頭当りの資産額は885千円、総借入金額189千円まずまずの財務内容になった。 5地域活動 (1)小学生の情操教育の協力 昭和63年に地元の小さな小学校で子牛を飼い、児童がこの牛の世話をして日々成長していく過程を情操教育に取り入れた。この過程を報道機関のドキュメンタリーでテレビ放映された。このときのPTAとして協力して来た。当時三年生の長女がこの時の家畜に対する思いが、成長するにつれて一層強くなり、獣医師学生から獣医となって近くの市の家畜共済組合で産業動物獣医師として診療業務に励んでいる。更には次女が、両親の後ろ姿をみて県立農業大学校を卒業後、新米牛飼いとして母の元で繁殖牛管理を勉強中であり逞しく育って貰いたいと思っている。 (2)地域活動にリーダーシップを発揮する。 昭和63年に発足した和牛登録協会県支部の東頚城郡東部和牛改良組合の副組合長、組合長を妻は副組合長を務め組合員間の融和と和牛改良に力を注いで来た。 平成8年に松代町農業経営者会議を立ち上げて会長に就任し業種を超え農業者の交流の場を作り町の農業振興に貢献している。 同じ平成8年に新潟県の指導農業しに認定され県内和牛繁殖農家の範として優秀技術の伝承に努めて来ている。 | 1山地で冬場3mをこえる積雪の中で、農業、特に和牛繁殖経営は夫婦が互いの信頼のもと良きパートナーとして営んでいく事が絶対要件であると考えている。 2繁殖経営を確かなものにするには、先ず生産技術の習得と向上が大切であるが、経営が大きくなるにつれて、互いに依存しあってる間に、自然と管理観察不足が見られようになって来た。夫婦で話し合いそれぞれの担当を決めて、日々管理している。 3経営成果を高めていくには、繁殖生産技術を向上させることが何よりであって、その主な改善の項目は次の3点であって、これの達成に日々努力を重ねてきた。 (1)分娩間隔の短縮 繁殖牛の生産性を高めていくには、分娩間隔の短縮が課題であった事から、先進地視察で学んだ事を実行に移してきた。 (2)子牛の品質向上と商品化 経営成果を上げて行くには、子牛を多く生産することと少しでも高く売ることであって、肥育農家の評価売る事であると考え繁殖牛の血統を揃えてきた。 (3)粗飼料の確保 集約的に粗飼料を収穫できる草地は、山地で動もすれば地滑りの危険性がある地域での草地造成は難しいことと、多くの費用を必要とすることもあって、多少の労働を必要とするが、未利用資源の活用を検討し実施している。 4経営を安定的に営むことと、後継者に夢を失わせずにを育てていくには、健全経営を持続させていく事が非常に大事と考えて日々努力して来ている。 5山間豪雪地域で生きていくには、地域活動を通じて、共に生きていく者の連帯と後継者作りを行い。また、次代を担う子供達には、郷土愛や山間地農業の知識を育む情操教育のための野外学習等への参加や協力を行うことは、自然を相手に生活して来た者の役割でと思いながら活動を続けて来ている。 |
3.経営・活動の内容
(1)労働力の構成
平成15年12月現在
区 分 | 続柄 | 年齢 | 農業従事日数 | 年 間 総労働時間 | 労賃単価 | 備 考 (作業分担等) | |
うち畜産部門 | |||||||
本人 | 47 | 280 | 145 | 2,240 | 1,350 | 全体 | |
妻 | 46 | 300 | 210 | 2,400 | 1,350 | 繁殖牛管理 | |
家 族 | 次女 | 21 | 研修期間中 | ||||
常 雇 | |||||||
臨時雇 | のべ人日 人 | ||||||
労働力 合 計 | 2 人 | 580 日 | 355 日 | 4,900 時間 |
(2)収入等の状況
平成15年 1月~平成15年12月
区 分 | 種 類 品目名 | 作付面積 飼養頭数 | 販売量 | |
農業生産部門収入 | 畜 産 | |||
和牛繁殖主体一貫 | 25.2頭 | 25頭 | ||
耕種 | 水 稲 | 200a | 8,250kg | |
林産 | ||||
加工・販売 部門収入 | ||||
農 外 収 入 | ||||
合 計 |
(3)土地所有と利用状況
区 分 | 実 面 積 | 備 考 | ||||
うち借地 | うち畜産利用地面積 | |||||
個 別 利 用 地 | 耕地 | 田 | 200a | 100a | a | |
畑 | 10a | a | a | |||
樹園地 | a | a | a | |||
計 | 210a | 100a | a | |||
耕地以外 | 牧草地 | 250a | 250a | 250a | ||
野草地 | 100a | 100a | 100a | |||
a | a | a | ||||
計 | 350a | 350a | 350a | |||
畜舎・運動場 | a | a | a | |||
その他 | 山 林 | 100a | a | a | ||
原 野 | a | a | a | |||
計 | 100a | a | a | |||
共同利用地 | a | a | a | 利用戸数: |
(4)家畜の飼養状況
単位:頭(羽)
品種・区分 | 成牛 | 子牛 | 育牛 | 肥育牛 | 合計 |
期 首 | 25 | 20 | 1 | 9 | 55 |
期 末 | 24 | 16 | 0 | 11 | 51 |
平 均 | 25.2 | 18.8 | 0.4 | 9.1 | 53.5 |
年 間 出 荷 頭(羽)数 | 16 | 9 | 25 |
(5)施設等の所有・利用状況
①所有物件
種 類 | 棟 数 面積数量 台 数 | 取 得 | 所 有 区 分 | 構 造 資 材 形式能力 | 備 考 (利用状況等) | ||
年 | 金額(円) | ||||||
畜 舎 | 繁殖牛舎1 繁殖牛舎2 肥育牛舎 | 72m2 240m2 270m2 | S 48 S 52 S 55 | 500,000 5,700,000 8,100,000 | 個人所有 〃 共同所有 | 木造二階 〃 鉄骨平屋 | 利用率4/5 |
施 設 | 堆肥舎 堆肥盤 車庫・納舎 | 24m2 24m2 52m2 | S56 H14 H 5 | 500,000 255,000 1,500,000 | 個人所有 〃 〃 | 木造平屋 木造平屋 | |
機 械 | トラクタ デスクモア テッター ヘイベーラ タイヤショベル トラック 軽トラック 軽トラック ブルドーザー | 1台 1台 1台 1台 1台 1台 1台 1台 1台 | H12 H 5 H 5 H 5 H15 H 2 H10 H12 H13 | 2,500,000 125,000 100,000 480,000 1,155,000 3,400,000 750,000 250,000 100,000 | 個人所要 共同利用 〃 〃 〃 個人所有 〃 〃 〃 | 21馬力 100cm 100cm 300kg 2t 360kg 360kg | 2人共同 〃 〃 〃 中古 中古 |
(6)経営の推移
年 次 | 作目構成 | 頭(羽)数 | 経営および活動の推移 |
S49 S52 S54 S55 S61 S62 S63 H元 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H10 H11 H13 H14 | 水田70a 水田100a 採草地30a 採草地160a 採草地300a 水田120a 採草地300a 水田170a 採草地300a 水田200a 採草地300a | 繁殖牛6頭 繁殖牛9頭 肥育牛10頭 繁殖牛15頭 肥育牛10頭 繁殖牛20頭 肥育牛10頭 繁殖牛20頭 肥育牛9頭 繁殖牛25頭 肥育牛10頭 | 学校卒業し後継者として就農する。 結婚 繁殖牛舎を建てる。 5人共同の牛舎を建設1/5を利用 7人の農家で松代町畜産機械利用組合を立ち上げる 共同牛舎2/5を利用 松之山町繁殖農家と東頚城東部和牛改良組合を設立 3~4年改良組合副組合長を務める 妻が改良組合副会長を務める 松代町議会議員に当選し3期連続当選 松代町認定農業者に認定される 新潟県指導農業士に認定される 東頚城東部和牛改良組合長を12年まで務める 現在に至る |
(7)自給飼料の生産と利用状況
飼料作物の生産状況(15年1月~15年12月)
使用 区分 | 飼料の 作付体系 | 地目 | 面 積(a) | 所有 区分 | 総収量 (t) | 10a当たり 年間収量 (t) | 主 な 利用形態 (採草の場合) | |
実面積 | のべ 面積 | |||||||
採草 | リードカナリーグラス・オーチャードグラス混播 | 畑 田 | 250a | 250a | 借地 | 87.5t | 3.5t | 1番草:乾草 2番草:乾草 |
計 | 250a | 250a | 87.5t | 3.5t |
4.家畜排せつ物処理・利用方法と環境保全対策
(1)家畜排せつ物の処理方法
①固液分離処理の状況
混合処理
②混合処理
敷料は、オガクズとモミガラをもちいる。毎日飼料残渣と併せてボロだしを行い堆肥舎に搬入する。
堆肥舎に堆積された厩肥は、1ヶ月後ローダーで切返しを行い、更に1ヶ月後切返しを行う。2回の切返し後ボロ出しから3から4ヶ月で堆肥化する。堆肥の半分は自家利用する。残りの半分の内60%は稲ワラと交換し、40%は販売する。交換と販売する堆肥は、耕種農家の圃場や堆肥盤に運ぶ。冬場は堆肥舎内と1部堆肥盤にストックする。
(2)家畜排せつ物の利活用
①固形分
内 容 | 割合(%) | 品質等(堆肥化に要する期間等) |
販 売 | 20 | 2t車1台@5,000円 |
交 換 | 30 | 稲ワラ交換 |
無償譲渡 | ||
自家利用 | 50 | |
そ の 他 |
(4)評価と課題
①処理・利活用に関する評価
敷料にオガクズ、モミガラを使用して、牧草等粗飼料の残渣をふん尿混合で、毎日ボロ出し、堆肥舎に搬入したものを1ヶ月程度で、第1回目の切返しを行い更に1ヶ月経過して切返し3~4ヶ月で堆肥化する。
堆肥の半分は、自家水田等に施肥し、残りの60%は稲ワラと交換し、40%は販売している。堆肥は、稲ワラ交換先や販売先の耕種農家には、農家が指定する場所に搬入している。
地域においての耕種農家は堆肥を、肉用牛農家は稲ワラを収集する耕畜連携の下で堆肥の流通をおこなわれていることを評価する。
②課 題
当地は積雪期間が140日と長い期間のため、この期間の堆肥のストックの量が多いため、一部オーバーフローが見られ一部堆肥盤で処理して、汚泥等が出ないようにシートカバーで覆っているが、現在堆肥盤を屋根で覆う計画中であり早急に実現を望むところである。
(5)畜舎周辺の環境美化に関する取り組み
牛舎位置は、山地の中で人家から離れて建設されている事から、畜産による環境問題はないが、牛舎の前を国道が走っている事もあって、ふん尿は堆肥舎と堆肥盤で処理を行っている。堆肥盤にはシートで覆うことや牛舎周辺の整理整頓を行って、出来るだけ自然環境を壊さないように心がけている。
5.後継者確保・人材育成等と経営の継続性に関する取り組み
高齢化して来ている繁殖農家の減少が続く中、3人姉妹のうちで、長女は獣医師として近隣の市、上越市農業共済組合家畜診療所に勤務し地域の産業動物診療業務に従事して、側面から地域畜産の安定化に努め、次女が平成15年に県立農業大学校を卒業して1年間研修した後就農して、平成16年に和牛繁殖経営後継者として、母と共に繁殖雌牛の飼養管理と経営管理を担当している。
また、地域や県内の繁殖農業者には、自身が持つ飼養技術を伝えて、後継者育成を行なっている。
6.地域農業や地域社会との協調・融和についての活動内容
・地域の農業・畜産の仲間との共存のための青年農業活動
山間地では社会生活を続けていくには、地域の連帯が何よりも必要であり、日常の生活の中で、地域連帯強化に努めて来ている。
平成8年に立ち上げた、松代町の認定農業者で組織する農業経営者会議の会長を平成11~14年まで務めて地域農業の活性化活動を支えて来た。
・地域循環型農業の確立(耕種農家との結びつき)
堆肥の自家利用の他、近隣の稲作、畑作農家に堆肥を提供して、稲ワラと交換して耕種部門では地力の増強、繁殖部門はで粗飼料の安定的確保を図って来ている。
・遊休地の利用(転作田の有効活用)
山間地でしかも豪雪地での草地造成が難しい中で、原野を活用して未利用資源である野草を積極的に刈取り、粗飼料の安定的な収集とコスト低減を行なっている。
・地域のリーダーとしての担い手育成(指導農業士としての活動、新規就農希望者の研修受入れ等)
一層の自己繁殖経営を安定させて、それを範として経営生産技術を伝えながら、繁殖経営の継承者育成を行って来ている。
7.今後の目指す方向性と課題
1.地域農業の活性化を続ける。
決して立地条件が良いとは言えない地域にあるが、農業は大自然から食べ物を作り、人を育てる大切な産業であり、町の主産業であることから是非守り続けて行きたい。
2.経営規模について
水稲200aと繁殖和牛25頭で年間期待される農家所得は5,000千円ほどであり後継者に継承するには、まだ小さい規模であるが、粗飼料基盤の不足もあり繁殖牛の増頭は抑え、一層の分娩間隔短縮と借り腹を活用した受精卵移植で、子牛の生産量を増加させての肉用牛部門収益拡大を図りたい。
3.高品質子牛生産について
県産和牛の統一ブランドである「にいがた和牛」の県内一貫生産と自己経営内の1部一貫経営を目指して、家族や地域一丸となって、県内肥育農家が求める、資質が良く、発育の良い肥育素牛生産に研鑽して行きたい
4.繁殖生産技術の継承について
自身の経営内では、後継者が生まれたが、地域や県内の繁殖牛経営希望者に広く自身の技術を積極的に伝えて、後継者育成に貢献して行きたい。