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【17年度】妻有の里の仲間が取り組む安全・安心20年の歩み

グループ活動
 
~消費者の信頼を第一に考えた豚肉生産~
妻有畜産グループ

1.地域の概況

十日町市は、平成17年4月1日に旧十日町市、中魚沼郡川西町・中里村、東頚城郡松代町・松之山町の5市町村が新設合併して誕生した市である。新潟県の南部に位置し、長野県との県境に近い中山間地域であり、市の東側には魚沼丘陵、西側には東頸城丘陵の山々が連なっている。中央部には信濃川が南北に流れ、十日町盆地とともに雄大な河岸段丘が形成されている。また、津南町は十日町市の隣に位置しており、町の南西から北東に流れる信濃川とこれに合流する志久見川・中津川・清津川の4河川により、十日町市同様、階段状に発達した壮大な河岸段丘が形成されている。
気候は日本海型気象区分に属し、毎年の平均積雪は3m近くにも達する全国でも有数の豪雪地帯である一方、夏は北西の涼風に恵まれて高原のようなさわやかな気候が続く。また、肥沃な土地や自然資源に恵まれていることから農業に適した地となっている。年間の3分の1以上が降積雪期間となり、この気象条件が雪国独特の生活文化の形成や経済活動などに大きく影響している。
 
 第一次産業は魚沼コシヒカリで有名な水稲栽培を主とする農業が中心となっている。経営基盤強化のため、経営複合化を目指す動きとして10年程前からきのこ等特用林産物の生産が盛んになっており、地域では環境保全型農業の確立を目指し、きのこ廃菌床と家畜ふんを効率的に堆肥化処理する取り組み等を積極的に行っている。
 
 
(1)飼養頭羽数(平成17年2月現在) (単位:戸数・戸、頭数・頭、羽数・百羽)
区 分
乳用牛
肉用牛
採卵鶏
戸数
頭数
戸数
頭数
戸数
頭数
戸数
羽数
385
12,512
391
13,556
201
218,080
42
46,820
十日町市
6
147
10
179
8
 9,929
0
0
津南町
7
280
6
107
10
11,117
0
0
 
(2)農業産出額(平成15年度)               (単位:百万円、%)
区 分
畜産物
野菜
その他
十日町市
11,903
655(5.5)
9,609(80.7)
1,086(9.1)
553(4.7)
津南町
5,815
828(14.2)
3,504(60.3)
927(15.9)
556(9.6)

2.組織・グループ化の目的

(1)目的・背景

昭和50年代、グループ管内の養豚経営は1戸当りの飼養規模が小さく、飼料購入、肉豚出荷は各経営体がそれぞれ個別の取り引きを行っていた。特に津南町では、その傾向が顕著であり、飼料購入、肉豚出荷ともに農協利用率が50%を下回っていた。当時の豚枝肉価格は、南関東4市場の平均価格で決められており、生産者にとっては不安定で不利な面が強かった。また、飼料代金の支払いは川西町では1ヵ月以内となっていたが、他の農協では1~3ヵ月とまちまちで、多額の未払金を抱えている農家も多かった。
このことから、昭和60年に養豚農家の地位向上、経営体質の強化、養豚農家戸数減少の阻止、仲間づくりの強化を目的に中魚沼郡内(十日町市、川西町、津南町)の9名の養豚農家により、妻有畜産株式会社を設立することとなった。
ただ、当時の構成員は3つの農協に分散していたため、スケールメリットを出すためには1つの農協に取り引きを統一する必要があり、設立発起人代表者の所属する川西町農協に一元化することとしたが、当然、他の農協からは激しく抵抗を受けることとなった。各地区の構成員とともに粘り強く交渉を続け、負債の返済、経営基盤の強化、系統への集約等を協議する中で、最終的には全ての農協から理解と協力を得ることができ、県下で初めて単位農協の枠を超えた経済組織ができるとともに、飼料購入・肉豚出荷の系統一本化の方向付けがなされている。
当初、構成員は自家配合を行うことでコスト削減に努めたが、一部の経営を除いては限られた労力の中で単味飼料の調達から飼料撹拌による製造までを行うのは効率的でないことから、自家配合を中止してグループで指定する配合飼料に切り替えることで労力の低減を図るよう方向転換した。特に、飼料製造にかかっていた労力や労働時間を本来の豚飼養のための管理・観察時間に充てたことで、各経営体の肉豚生産量は増大し、結果的には生産コストの引き下げと所得の増加が図られることとなった。また、指定配合飼料を共同購入することで、スケールメリットを活かした仕入れ価格の引き下げにつながり、支出経費削減によるコスト低減も図られている。
 
なお、株式会社設立に当たり、妻有畜産の集結力を強め、借入金に依存した体質から脱却するために、構成員には次の条件を付した。
1)飼料代金の支払いは1ヵ月サイト内の決裁
2)保証人の設置
3)飼料は全量会社を通じての購入
また、構成員の戸数、飼養頭数の推移であるが(下図参照)、新規加入があり、最大時には15戸の構成員となった。その後他業種に転換の経営等もあり、現在は10戸が活動しており、規模拡大が図られている。
 

(2)構成員の経営概況

項目
経営A
経営B
経営C
経営D
経営E
経営類型・作目
養豚一貫
稲作
養豚一貫
養豚一貫
養豚一貫
稲作
養豚一貫
稲作
形態(個人or法人)
法人
法人
法人
個人
個人
労働力
7
5
4
3
3
 うち家族・構成員
3
2
3
3
3
 うち雇用・従業員
4
3
1
 
 
飼養頭羽数
母豚250頭
母豚220頭
母豚140頭
母豚110頭
母豚110頭
 主産物
豚肉
豚肉
豚肉
豚肉
豚肉
 副産物
 
堆肥
堆肥
堆肥
堆肥
堆肥
飼料生産状況等
ふん尿処理の状況
堆肥舎
浄化処理
堆肥舎
浄化処理
堆肥舎
下水処理
堆肥舎
浄化処理
堆肥舎
浄化処理
生産量・年間販売頭数等
5,291頭
397,120㎏
平均75.1㎏
上物率58.8%
4,537頭
339,368㎏
平均74.8㎏
上物率50.5%
2,869頭
212,709㎏
平均74.1㎏
上物率54.9%
2,418頭
179,623㎏
平均74.3㎏
上物率50.7%
2,043頭
155,138㎏
平均75.9㎏
上物率62.0%
その他
・代表取締役
・クリーンポーク生産農場認定
・取締役
・クリーンポーク生産農場認定
 
・クリーンポーク生産農場認定
・会計
・クリーンポーク生産農場認定
・監査役
・クリーンポーク生産農場認定
 
 
項目
経営F
経営G
経営H
経営I
経営J
経営類型・作目
養豚一貫
養豚一貫
畑作
養豚一貫
養豚一貫
稲作・畑作
種豚販売
一部一貫
形態(個人or法人)
個人
個人
個人
個人
個人
労働力
3
2
3
3
1
 うち家族・構成員
2
2
3
3
1
 うち雇用・従業員
1
 
 
 
 
飼養頭羽数
母豚100頭
母豚55頭
母豚50頭
母豚40頭
母豚80頭
 主産物
豚肉
豚肉
豚肉
豚肉
種豚
豚肉
 副産物
 
堆肥
堆肥
液肥
堆肥
液肥
堆肥
液肥
堆肥
液肥
飼料生産状況等
ふん尿処理の状況
堆肥舎
浄化処理
堆肥舎
液肥処理
堆肥舎
液肥処理
堆肥舎
液肥処理
堆肥舎
液肥処理
生産量・年間販売頭数等
2,067頭
155,208㎏
平均75.1㎏
上物率55.2%
1,084頭
80,991㎏
平均74.7㎏
上物率50.3%
275頭
20,873㎏
平均75.9㎏
上物率38.2%
685頭
49,565㎏
平均72.4㎏
上物率45.5%
730頭
53,608㎏
平均73.4㎏
その他
・取締役
・クリーンポーク生産農場認定
 
・クリーンポーク生産農場認定
・監査役
・クリーンポーク生産農場認定
 
・クリーンポーク生産農場認定
 
・クリーンポーク生産農場認定

3.活動内容

(1)具体的な活動内容

1.妻有畜産株式会社の活動
1)飼料・資材の共同購入
飼料並びに生産資材の購入を一元化し、購入単価の引き下げに努めている。「どこよりも安く」をモットーとして、構成員にスケールメリットを活かした低価格の飼料・生産資材を提供することで飼料費は10~20%程度低下している。
 
2)構成員の経営体質強化の取り組み
地域養豚仲間の経営内容充実が最大の目的であったため、組織形態は「任意組合」の形態を取らずに個人の責任を明確にした「株式会社」組織を選択した。このことで個人の組織での役割分担が明確となり企業的経営者意識の醸成につながっている。
妻有畜産株式会社は統一した飼養管理マニュアル確立のための指導会を実施し素豚や飼料、衛生プログラムの統一化を図っている。また固定負債化しつつあった飼料の未払金の圧縮を構成員全員に強制し健全経営に向けての取り組みを行った。設立時、構成員には飼料の未払金があったが、4年後の平成元年には未払金は全員1ヵ月サイト内まで圧縮する事ができた。
 
3)財務内容充実のための積立
構成員の経営安定に向けて各人に積立金を実施した。特に飼料・枝肉の価格変動や事故等に備えて構成員の経営意識向上に努め、併せて経営体力をつけることを目的とした。
目標は各経営の飼料購入費の1ヵ月分を貯蓄させることを目標としたが、未払金の完済に加え、全員が平均2~3ヵ月分の積立が可能となった。
 
4)地域銘柄豚の販売
こだわりの銘柄豚を生産するため、素豚は品質・系統を統一している。グループ内のブリーダーよりL・WL等を導入している。
共通した飼養管理マニュアルにより素豚や給与飼料もほぼ統一されたことで、各農場で生産された肉豚は当初地域銘柄豚「つまりプライムポーク」として販売を実施、現在は地域銘柄豚「妻有ポーク」として販売している。
 
5)構成員の経営者意識の向上
構成員の資質向上のため、月1回の経営検討会を定例的に開催し、会社運営の検討、養豚経営に関する情報・技術の交換等、講師を招いての研修会等を実施している。
 
2.妻有畜産の構成員が中心となっての地域自衛防疫体制の確立
平成元年、全国的なオーエスキー病の広がりに危機感を持った妻有畜産の構成員はオーエスキー病等の侵入防止を目的に「中魚沼・十日町養豚防疫対策協議会」の立ち上げを地域関係機関に働きかけ協議会を設立している。また管内2ケ所に「隔離豚舎施設」を設置し運営を開始している。この隔離豚舎施設の利用については管内の養豚農家が全員参加することとし、施設運営に係る費用の大部分は妻有畜産の構成員が負担することとした。
このような地域防疫体制のシステム作りが当事者である妻有畜産の構成員が中心となって早い時期に設立・運営されたことから、中魚沼郡内が現在まで県内はおろか全国的にも稀なオーエスキー病・PRRS清浄地域として維持され地域自衛防疫体制の推進に大きな成果を上げている。
また、養豚経営を取り組む上で衛生管理が最重要課題であることから、早々に家畜保健衛生所の指導の下、HACCP方式の導入を決定している。各農場に見合った衛生管理マニュアルと養豚生産現場でのHACCP方式の考え方を導入した衛生管理体制を確立することで、構成員10農場全員が「クリーンポーク生産農場」として県畜産協会から認定されている。
さらに、長年の防疫体制と衛生管理体制の確立により、肥育豚の子豚段階から飼料添加物を一切使用しない肉豚生産を行っているので、自信を持って安全・安心な豚肉を地域の消費者に対して提供可能となっている。
 
3.家畜指導診療所との協力体制で画像妊娠診断を実施
養豚の安定的経営の継続には、繁殖技術の向上が基本である。特に離乳後の発情誘起が大切であり、発情再帰日数短縮のためにも妊娠鑑定器の活用が効果的である。
そこで、妻有畜産の構成員が所属する十日町農協養豚部会、津南町養豚部会の会合において画像妊娠鑑定器の共同利用を提案し、養豚部会全員の参加と十日町地域家畜指導診療所とのタイアップ体制を確立し管内の繁殖成績向上に努めている。
また、十日町地域振興局(農業改良普及員)の協力を得ることでタイアップ体制が強固なものになり構成員全員の成績向上が図られている。
 
4.地産・地消運動の推進
妻有畜産グループの理念として「安全・安心なおいしい豚肉を消費者へ」の思いから、こだわりを持って肉豚を生産しており、特に子豚期から出荷までの無薬飼料の使用は特徴的である。また、学校給食は子供達に安全安心な食と栄養バランスを目的に供給されているが、将来のある子供達がどんな肉を食べているのか判らないようでは不安である。
身元がはっきり判るものを食べさせたいとの思いから学校給食関係者などを対象として「地産・地消視察研修会」等の交流会を開催し「つまりポーク」の生産に理解を求めている。食肉センターや食肉加工施設を視察し、衛生的な食肉処理と検査体制の実態を知ってもらうことで、地元畜産物の利用と地産・地消について理解向上を求めた。また、安全・安心のリーフレットを作成し、消費者への情報提供や顔の見える畜産として多くをPRする等様々な努力を続けている。この結果、旧十日町市内と旧川西町内の小中学校の給食では100%、津南町でも多くの学校で「妻有ポーク」が採用されている。
 
5.農業生産法人 (有)ファームランド木落との協力体制の確立
(有)ファームランド木落は、元々水稲生産を中心に経営を行ってきたが、地産・地消、地域農業の新たな展開を目指すために、平成12年に農業生産法人を設立し、これを機に食肉の加工、販売施設を設置している。設立以前より妻有畜産グループ構成員との交流も深く、「地元で生産したおいしい豚肉をもっと地域の人達に食べてもらいたい」との思いから、妻有畜産グループが生産する妻有ポーク以外の豚肉は取り扱わない等徹底している。
なお、(有)ファームランド木落は豚肉の卸を行いながら、商品の開発、製造、販売も行っており、「コロッケ」、「豚肉のみそ漬」などの定番商品から、地酒に漬け込んだ「ポークジャーキー」や「豚肉のワイン漬」などユニークな商品も販売している。
 
6.資源循環型農業の推進
近年、安全・安心な農産物を生産するために減農薬・減化学肥料栽培が求められているが、妻有畜産グループでは耕種農家に堆肥の供給を行って耕畜連携を推進することで、地域のブランド米「魚沼コシヒカリ」や有機野菜の生産に大きく貢献している。
 
7.村おこし活動の実施
管内の養豚仲間と妻有畜産構成員とで作る30年の歴史を持つ自主研究グループ「TPPC(津南・十日町ポークプロデュースクラブ)」において、衛生面の関係で実施が難しいとされる生体の共進会や、優良個体を識別する能力を競うジャッジングコンテストを実施している。肉豚を観察する目を養うことと消費者ニーズにあった生産性の高い豚肉生産についての知識と能力を深めることを目的として開催しており、地域の養豚仲間達が毎年楽しみにしている行事となっている。特にこの地域の養豚農家には後継者や若い従業員や女性従業員が多いのが特徴的で、若者のアイデアと活力を存分に発揮することにより、地域農業全体の活性化に大いに役立っている。
また、管内で行う農業祭や地域のイベント(雪まつり等)に積極的に参加し、豚汁の無料サービスを仲間と行うなど、地域活性化に積極的に取り組んでいる。

(2)実施体制

妻有畜産グループの主な活動内容
妻有畜産グループ フロー図

4.活動の年次別推移

年 次
活動の内容等
成果
課題・問題点等
 
昭和60年
 
 
 
 
 
63年
 
 
 
平成元年
 
 
 
 
 
 
3年
 
 
7年
 
 
 
 
 
 
13年
 
 
 
14年
 
 
 
 
15年
 
 
 
 
 
16年
 
 
 
 
 
 
17年
 
 
 
妻有畜産株式会社を設立
 
 
 
 
 
銘柄豚「つまりプライムポーク」の販売を開始
 
 
中魚沼・十日町養豚防疫対策協議会、十日町市隔離豚舎組合、津南町隔離豚舎組合の設立
 
 
 
中越オーエスー病防疫対策協議会への参加
 
創立10周年記念式典の挙行
 
 
 
 
 
画像妊娠診断の実施
 
 
 
銘柄豚「妻有ポーク」の販売を開始
 
 
 
畜産物安全・安定供給相互理解体制推進事業により、妻有地域における消費者との交流会を開催
 
 
クリーンポーク生産農場に認定
 
 
妻有ポーク地産・地消視察研修会の実施
 
創立20周年記念式典の挙行
 
 
 
構成員9名、資本金1,000万円
経営財務内容の強化
  • 妻有畜産株式会社設立後、約4年経過後には構成員全員が未払金を完済
  • 保証金の積み増しを実行
 
  • 飼養管理マニュアル統一による銘柄豚販売の実行
  • 昭和63年~3年間販売
 
地域防疫体制の確立
  • 管内の養豚生産者全員参加の隔離豚舎組合を設立したことで、オーエスキー、PRRS陰性が継続される
 
 
 
  • オーエスキー病清浄地域の維持
 
 
生産管理方式の確立
  • 統一した生産管理方式がグループに定着し、成果を上げる
  • 経営規模拡大並びに再生産のための投資を奨励
  • 畜産環境保全のための取り組み奨励
 
  • 農林水産業総合振興事業により、JA十日町養豚部会で導入
 
 
ブランド肉生産方式の確立
  • 食肉等安全性評価自主検査事業により、残留検査を実施し、陰性証明を取得
 
地産・地消の推進
  • 生産者、学校給食関係者、消費者と交流し、理解を得る
  • 旧川西町並びに十日町市学校給食に「妻有ポーク」を提供
 
  • 構成員10名全員が「クリーンポーク生産農場」の第1~10号に認定される
 
  • 食肉センター、食肉加工場を視察し、妻有ポークの安全性をPR
 
  • 次期代表取締役の発表
  • 若手養豚後継者の育成(若手従業員、女性従業員を含む)
 
 
 
 
 
 
 
 
販売先スーパーの合併により販売中止
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
豚コレラ予防注射中止後の地元家畜指導診療所との関係の強化
 
 
 
 

5.活動の成果・評価

(1)活動成果の内容

1) 妻有畜産株式会社の設立により、構成員の飼料費負担は経営体によっても異なるが概ね10%~20%低下している。このことで、当時構成員全員で多額の未払い金があったが、設立の4年後には飼料代の未払金が全額返済されている。
 
2)昭和63年頃からは、構成員の賛同を得て個人名義の内部積立を開始した。当初は各人の1ヶ月分の飼料代相当額以上を目安にしていたが、現在では3ヶ月分以上の積立があり、資金繰りや経営体力に余裕が出てきている。また、養豚農家減少の歯止めになるとともに、規模拡大や後継者の就農、若手従業員(女性も含む)の雇用も見られるようになった。
 
3)妻有畜産は互助組織ではないため、構成員の経営には直接関与しないスタンスを取っている。当初から任意組合ではなく、経済効率を追求する株式会社としたのもそのためであるが、一方で構成員の経営が順調に運営できるよう生産技術・養豚情報を提供するとともに、安価で高品質な飼料を供給するという責務を果たしている。また、閉鎖的になりがちな養豚界において、他のグループとも技術交換等をオープンに行っている。こうした会社の方針により、各人の経営感覚が磨かれてきたものと思われ、現在では、妻有畜産が培ってきた社会的信用が構成員にとって大きな財産になっていることが理解されている。
 
4)養豚経営に大きく作用する家畜衛生・防疫体制では、地域一体となった取り組みをする際には妻有畜産とその構成員が中心となり、関係機関との交渉をするなど重要な役割を果たしている。特に隔離豚舎の設置に当たっては、妻有畜産の構成員が費用の大部分を負担することにより、小規模農家も含めた管内全戸参加型の利用組合が早い時期に設立された。このことで、オーエスキー病・PRRS清浄地域を維持するなど大きな成果を挙げている。
 
5)こだわりの衛生管理とHACCP方式の導入は、これからの養豚経営をする上で大切であることから、平成16年1月にクリーンポーク生産認定事業で構成員全員が「クリーンポーク生産農場」の認定を受けている。こうしたことで、現在では管内のほとんどの小中学校の給食に妻有ポークを取り入れてもらうことができるとともに、地元スーパーにはハーブ入り飼料を利用した豚肉を提供するなど地産・地消を積極的に推進し、安全で美味しい地場産豚肉として高い評価を得ている。また、㈲ファームランド木落に妻有ポークを提供することで協力関係を結んでいる。㈲ファームランド木落は豚肉の加工・直販を手がけており、新商品の開発にも積極的である。生産履歴のはっきりしている豚肉、薬に頼らない健康豚の提供は地産・地消を推進する意味でも意義のあることである。
 
6)当該地域は新潟県が認定する「エコファーマー」が多く存在するため、持続性の高い農業生産方式の導入に積極的に取り組んでいる。生産された堆肥は自家利用の他、近隣の稲作・畑作農家に供給され、地域のブランド米「魚沼コシヒカリ」や高原の有機野菜生産に大きく貢献し、耕畜連携による資源循環型農業が確立されている。
 
7)このように、妻有畜産グループはお互いに切磋琢磨することで、優秀な経営が多く、元気があり、県内養豚振興及び地域農業活性化のリーダー的存在となっている。

(2)成果指標

1.種豚(♀)飼養規模の変化(単位:頭)
区分
経営
A
経営
B
経営
C
経営
D
経営
E
経営
F
経営
G
経営
H
経営
経営
S60
110
100
50
80
55
35
35
35
25
40
565
H7
205
170
100
90
75
50
40
40
40
60
870
H16
250
220
140
110
110
100
55
50
40
80
1,155
 
2.構成員の技術管理成績の成果(平均)
区       分
単位
昭和63年度
平成16年度
平成16年度
コンサル平均
年間換算離乳子豚頭数
19.5
21.9
21.2
種豚(♀)1頭当り肉豚出荷頭数
17.6
20.0
19.4
平均枝肉重量
69.2
74.6
74.1
 
3.構成員の経営管理成績の成果(平均)
区       分
単位
昭和63年度
平成16年度
平成16年度
コンサル平均
所得率
10.5
22.6
20.8
自己資本比率
24.6
72.9
68.4
流動比率
140
417
404

(3)今後の課題

消費者が「安心感」をもって購入してくれる豚肉を生産することが第一であり、そのためには品質はもちろんのこと、安全性においても一定の基準を保った中での生産システムの構築が重要となる。このため、HACCP方式を導入して「クリーンポーク生産農場」としての認定も受けているが、更なる取り組みとして、全農新潟県本部が推進している「豚トレーサビリティシステム」の導入を検討している。
また、地域社会に根ざす養豚経営者を各人が目指すには、今後は地域の子供達への食育にも自らが関わる必要があると考えている。現在、地元の学校給食へ豚肉を提供し、安全で安心な豚肉として評価を得ているが、もう一歩進んで家畜を育てる意味や生命を維持するために様々な努力が必要なことなどを食育活動として推進していくべきと考えている。
地域のブランド肉の確立を目指して地域に根ざした「地産・池消」を推進したい。

6.普及にあたっての留意点

  •  グループが一丸となって取り組むためには、会合を重ねグループの方向性等について意思統一を図ることが重要となる。また、地域の関係者との協力体制を確保する必要性がある。
  •  経営者意識をより一層高め、経営管理の合理化・効率化を図るためには法人化等に誘導することが望ましい。
  • 若手従業員や女性従業員を確保するには、魅力のある養豚経営を展開する必要性がある。そのためには、若手の集まりである4Hクラブへの参加や消費者等とのふれあいの場を増やすことなど地域交流を推進し、また、働く環境、働きやすさを確保することが大切である。
  • 地産・地消を推進するに当たり、地元消費者や学校給食関係者等を対象に視察研修会・交流会を開催し、自分達が取り組んでいる内容を理解してもらうとともに、HACCP方式の採用等、科学的裏付けに基づく安全・安心な豚肉生産について誇りと自信を持ってPRする積極性が必要である。

7.事例の特徴や活動を示す写真

妻有畜産グループ構成員(十日町市5名、津南町5名)
元気のある地域農業を支える仲間達
3メートルの豪雪に対応した3階建て豚舎
国営事業で開発された苗場山麓に広がる農地と隣接する豚舎
豪雪に対応した2階建て豚舎
左と同じ豚舎:冬は3メートル近くの積雪となる
十日町市内の隔離豚舎
隔離豚舎は養豚仲間の手づくりで低コスト化を実現
十日町地域家畜指導診療所による画像妊娠診断の実施
豚を見る目を競うジャッジングコンテスト
女性従業員にも魅力のあるイベントや交流会を展開
畜産物安全・安定交流会にて「妻有ポーク」の安全性をPR
学校給食関係者等と食肉センターを視察
消費者交流の一環:農業祭での「ふれあい家畜園」
農業生産法人 (有)ファームランド木落店内
妻有ポークを使用した商品の開発
公益社団法人 新潟県畜産協会
(代) 025-234-6781
FAX 025-234-7045
E-mail chikusan[あ]bg.wakwak.com
*[あ]をアットマークに変更して送信してください
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